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2026年5月28日

三つの名を生きた塊根 ― currorii・uter・macropus

「マクロプス」は currorii なのか、uter なのか。葉の形と命名史がたどる、ひとつの種の揺れ。

三つの名を生きた塊根 ― currorii・uter・macropus
ナミビア・スピッツコッペの花崗岩の麓に立つ *Cyphostemma currorii*。バオバブを思わせる太い幹は樹高 6m に達することもある。Photo: Stefan Wolmarans / CC BY 4.0

多肉植物の世界では、ひとつの植物が複数の名前で呼ばれていることがある。ブドウ科の大型塊根 Cyphostemma currorii はその好例だ。園芸の流通では「マクロプス」(Cyphostemma macropus)の名で広く親しまれ、ときに「ウーテル・マクロプス」(Cyphostemma uter var. macropus)と書かれた札も見かける。ところが現在の分類では、これらはすべて同じひとつの種 ― currorii ― に行き着く。なぜひとつの植物がこれほど名前を変えてきたのか。その背景には、よく似た近縁種 uter との「葉をめぐる見分けの難しさ」があった。

3 小葉の currorii、5 小葉の uter

まず手がかりになるのは葉の形だ。currorii の葉はふつう 3 枚の小葉に分かれる(3 小葉)。いっぽう近縁の uter は 5 小葉で、縁の波打ち(うねり)が強いとされる。どちらもアンゴラ南西部からナミビア北西部の乾いた岩場に育ち、太く膨らんだ幹からバオバブのように枝を広げる ― 全体の佇まいはよく似ているが、葉を広げる季節に近づいて見れば、小葉の枚数と縁のうねりに差が出る。

ナミビア・エロンゴ地方の *Cyphostemma currorii*。太い塊根状の幹から枝を広げ、3 小葉の葉をつける。
ナミビア・エロンゴ地方の *Cyphostemma currorii*。太い塊根状の幹から枝を広げ、3 小葉の葉をつける。Photo: n_armstrong / CC0
アンゴラ・ナミベ州の *Cyphostemma uter*。葉は 5 小葉で縁が波打ち、currorii よりうねりが強いとされる。
アンゴラ・ナミベ州の *Cyphostemma uter*。葉は 5 小葉で縁が波打ち、currorii よりうねりが強いとされる。Photo: desertnaturalist / CC BY 4.0

「マクロプス」はどちらに似ているか

ここで悩ましいのが「マクロプス」だ。アンゴラのモッサメデス(現ナミベ)周辺に産するこの系統は、currorii の幅のなかでは細身でコンパクトにまとまり、葉のうねりはどちらかといえば uter を思わせる。栽培家がしばしば「マクロプスは currorii より uter に近く見える」と語るのは、的外れな印象ではない。実際、分類学者も同じところで迷い、一時はこの植物を uter の変種 uter var. macropus として扱っていた。

「マクロプス」の名で流通する系統に近い、エロンゴ地方の個体。currorii の幅のなかでも細身でコンパクトにまとまる。
「マクロプス」の名で流通する系統に近い、エロンゴ地方の個体。currorii の幅のなかでも細身でコンパクトにまとまる。Photo: Robert Taylor / CC BY 4.0

三度組み替えられた名前

マクロプスの学名は、150 年あまりのあいだに所属を転々としてきた。

別種 → 変種 → 独立種 → シノニム、という長い往復である。currorii 自身も、もとは 19 世紀半ばに英国海軍軍医 Andrew Curror がアンゴラで採集した標本から Cissus currorii として記載され、のちに Cyphostemma 属へ移された経緯をもつ。

なぜ currorii に落ち着いたのか

最終的にマクロプスが currorii に統合されたのは、アンゴラからナミビアにかけての個体群を並べると、幹の太さや葉の形が連続的に移り変わり、明確な境界を引けなかったためと考えられる。マクロプスは「モッサメデス産の、やや細身の端」という、ひとつの種の幅のなかの変異として読まれた。

いっぽう uter は、5 小葉・強い波状縁・有毛といった形質が安定して区別でき、独立種として残された。マクロプスはその utercurrorii中間的な形質をもつために所属が揺れた ― これが「ややこしさ」の正体である。なお、ここで述べた境界の引き方はあくまで形態にもとづく分類学的判断であり、集団がいつどう分かれたかを直接検証した研究があるわけではない。

名前の揺れが映すもの

分類でしばしば取り違えやすいのが、「シノニムにまとめられた=価値のない名前」という誤解だ。シノニム化は、2 つの集団をどこまで別物として区別するかという程度の判断であって、植物そのものの魅力や系統的な近さを否定するものではない。マクロプスという呼び名は、currorii のなかでも特にコンパクトで姿のよい系統を指す通称として、栽培の現場でなお生きている。

現在の「正解」は、Kew の POWO にしたがえば Cyphostemma currorii が正名、macropus はそのシノニムである。ただし Cyphostemma 属全体は近年 DNA 系統解析による見直しが進んでおり、将来この区分が描き直される可能性は残る。三つの名を生きてきたこの塊根は、「種とは何か」という問いが今も流動的であることを、静かに教えてくれる。

出典

三つの名を生きた塊根 ― currorii・uter・macropus — The Exotic Manual