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2026年5月25日

赤花を分け合う姉妹 ― Pachypodium baronii と windsorii

種か変種か、100年揺れ続けた2つの塊根。その近さと違いを、命名史と分子系統からたどる。

赤花を分け合う姉妹 ― Pachypodium baronii と windsorii
マダガスカル北部・ソフィア地方の岩盤に立つ Pachypodium baronii。巨大に膨らんだ塊根が乾いた岩場に根を張る。Photo: amantedarmanin / CC BY 4.0

マダガスカル島の北部に、よく似た2つの塊根植物がある。Pachypodium baroniiPachypodium windsorii。どちらも膨らんだ幹(塊根)の先に枝を広げ、季節になると赤い花を咲かせる。じつはこの「赤い花」こそ、20種あまりを数える Pachypodium 属のなかで両者だけが持つ際立った特徴だ。姿も自生地も近いこの2つは、長いあいだ「同じ種なのか、別の種なのか」を行き来してきた。その揺れの物語は、植物の名前がどう決まり、どう変わっていくのかを映す小さな鏡でもある。

属で唯一、赤い花を咲かせる姉妹

Pachypodium の花は、その多くが黄色か白だ。そのなかで baroniiwindsorii だけが鮮やかな赤い花を咲かせ、徳利のように膨らんだ幹を持つ。この共通点ゆえに、両者は花色を手がかりとする小さな節 section Porphyropodium(属内で唯一の赤花群)にまとめられてきた。

近年は分類の根拠も、見た目だけにとどまらない。属を広く網羅した分子系統研究(Burge ら, 2013, PeerJ)では、baroniiwindsorii がまとまりのよい姉妹群として強く支持された(ベイズ事後確率 0.98、ブートストラップ 98%)。形態の印象だけでなく、DNA の上でも「属のなかで最も近い間柄」であることが裏づけられている。

P. baronii の花。細い花弁が開く、属では珍しい赤花。
P. baronii の花。細い花弁が開く、属では珍しい赤花。Photo: David J. Stang / CC BY-SA 4.0
栽培下の P. windsorii の花。平らに開く赤〜濃桃色の5弁。
栽培下の P. windsorii の花。平らに開く赤〜濃桃色の5弁。Photo: KP Laer / CC BY-SA 4.0

100年、揺れ続けた学名

windsorii の扱いは、一世紀のあいだ何度も変わってきた。最初に記載されたのは1916年、Poisson による独立種 Pachypodium windsorii として。ところが1949年、Pichon はこれを P. baronii の変種 P. baronii var. windsorii に格下げする。2003年の Govaerts のチェックリストも変種の扱いを引き継いだが、2004年に Lüthy が再び独立種として整理し直した。種 → 変種 → 種という、いわば往復の歴史だ。

現在の評価も一枚岩ではない。Kew の POWO は 独立種 P. windsorii を採用する一方、ワシントン条約(CITES)のデータベースは今も P. baronii のシノニム(同一種)として扱う。「種か変種か」は決着済みの事実ではなく、研究者や機関のあいだで見方が分かれている、現在進行形の論点なのである。

トゲをまとい柱状に伸びる P. baronii の幹。windsorii はこれを小さくまとめた姿に近い。
トゲをまとい柱状に伸びる P. baronii の幹。windsorii はこれを小さくまとめた姿に近い。Photo: David J. Stang / CC BY-SA 4.0

石灰岩がつくった小型版

2種は同じ北部マダガスカルに分布するが、生育地は重ならない。windsorii は Windsor Castle と呼ばれる石灰岩の岩山の周辺に限って自生し、baronii よりも全体に小さく、幹は低く丸い徳利型にまとまる。同じ体のつくりを、ぎゅっと縮めたような姿だ。

こうした違いは、石灰岩という特殊な基質と、岩山ごとに隔てられた地理的な隔離のなかで、baronii に近い祖先から小型の集団が分かれていった――と読むのが自然だろう。ただしこれは自生地の記載と形態からの見立てであって、分岐の年代や要因を直接検証した研究があるわけではない。交雑によって生まれたとする証拠も、いまのところ知られていない。

栽培下の P. windsorii。低く丸い徳利型の塊根に葉のロゼットを乗せる小型の姿。
栽培下の P. windsorii。低く丸い徳利型の塊根に葉のロゼットを乗せる小型の姿。Photo: KP Laer / CC BY-SA 4.0

「種か変種か」をどう読むか

ここで取り違えやすいのが、「変種から種に昇格した」ことを「別系統だと判明した」と読んでしまうことだ。種か変種かという階級は、2つの集団がどれくらい区別できるかという程度の判断であって、起源が別だという意味ではない。

P. windsoriiP. baronii var. windsorii は、同じ基準標本にもとづく同じ植物の呼び方違い(同型シノニム)にすぎない。一方の P. baronii は近縁だが別のまとまりだ。昇格とは「変種に収めるには独立性が高い」と判断されたということであり、共通祖先から分かれた姉妹、という関係そのものは変わらない。

栽培の現場では、いまも windsorii の名が、小型で徳利型の魅力的な系統として広く使われている。学名がどちらに転んでも、赤い花を分け合う北マダガスカルの姉妹、という物語は変わらない。

出典

赤花を分け合う姉妹 ― Pachypodium baronii と windsorii — The Exotic Manual